大江健三郎

「新しい人」の方へ

posted with 簡単リンクくん at 2006. 1.17

大江 健三郎著 / 大江 ゆかり画
朝日新聞社 (2003.9)
通常2-3日以内に発送します。

オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る

私はこの作家の本を、殆ど読んだことがない。いろいろ試してみたけれど、どうしても入り込めなくて放り出してしまう。だからそのままにしておいたけど、教会の青年会で仲良くしていた方が、個人的な体験は大江健三郎の実生活と重なるよね、というようなことを話しているのを聞いて、それなら読めるかな、と読んでみた。難解な部分もあるのだが、初めて読み通すことが出来、ほっとしたのを覚えている。大江氏にハンディをおって生まれたお子さんがいたことを初めて知り、興味を持った。１９９０年前後のことである。

しばらくして、大江健三郎の長男、光さんが作曲した作品のＣＤが話題になった。頭に大きなこぶを持って生まれてきた赤ちゃんが、こんな大人になって、ＣＤを出すほど音楽に才能を発揮するようになったのだ、と感動した。家族の歴史はどんなものだったのだろう？テレビでその後、大江氏と光さんが広島を訪ねるドキュメンタリーを見た。この親子、そして子どもたち。

今回、久しぶりに私が読んだのは、ノーベル賞作家となった大江氏が、「自分の木」の下でに続き子ども向けに書いた、人生を考える書である。心に浸みる本であった。むずかしいことを考えている人は、自分と関係の無い遠い人なのではなく、遠くて高いところにいるように思える人が、優しい言葉で心を開いて、成熟した大人になってはじめて幼かったころの自分や自分を育ててくれた親・先生を思い返して綴った、伝えたいことの数々。

大江氏のいう「新しい人」とは、自分や他人の経験を、本や映画や体験談などをとおして自分の考えとしてとらえなおし、力と力をもって緊張状態をたもつことで衝突を回避しているような、あるいはむちゃくちゃな理屈で強い者が敵をつくりあげ倒すというようなこの世界を、どうやって争いの無い世界に変えていくか、できるところから勇気をもって訴え考えていけるような人のことをいう。

私は常々、何か「善いもの」と繋がっていることで自分を安心させていたいというようなところがあり、そういうところが現実的でないというかロマンチストなのかもしれないと自分を分析している。そういう私にとって、大江氏の言わんとしていることは、とても心に響くのである。ぜひ「自分の木」の下でも読みたくて、今日図書館で借りてきた。もっとじっくり読書することが大切だと大江氏も言っているのだが、せっかちな私は次から次へと読んでしまう。せめてつたない文章ではあるが、感想をブログにこれからも綴りたいと思う。