十三夜
実は、父の具合がよくない。昨日はきょうだい4人が医師に集められ、病状の説明を聞かされた。今すぐどうこうということはないらしいが、老人のことであるから、予断は許さない状況だということ。医師の去った部屋にのこった私たちは、今後について時間をかけて話し合った。それからみんなで父を見舞った。4人が全員揃うのは、正月以来のことである。
父は酸素を鼻からチューブで入れて、うつらうつらしていた。時刻は午後五時に近くなっており、カーテンを開けると空の中ほどには十三夜の月が輝いていた。うっすら眼を明けた父が月を見つけて「今日は月がきれいだ。」とつぶやいたので「今日は十三夜だよ。」と教えたら、「樋口一葉の小説だ。」と教えてくれた。
氷枕がほしいというので介護の人にお願いし、ベッドの柵に足があたるというので身体の位置をずらしてもらった。部屋のアルバムには、私たちの小さいときの写真が何枚も貼ってある。それらをきょうだいで眺めて、「こんなにパパ若くてかっこよかったの。」「懐かしいなあ。」と言いながら、父を囲んで不思議なひと時を過ごした。夕食の心配もあるので長居はせず、みんなは帰ることになったけれど、父が背中が痛いというので下の兄が付き添って残ってくれた。
帰り道は上の兄のほうの義姉さんが合流して、駅まで一緒に歩いた。それから妹と二人電車を乗り継いで家に戻ると、母が孫たちの面倒をみてシチューを作って待っていた。シチューにピーマンが入っていたと、娘は渋い顔。息子はピーマンのおかげでおいしいと言う。私はお土産のシュークリームとプリンの箱を開けて、十三夜の話をみんなにした。子どもたちを寝かせる時刻には雲が出て、月は隠れてしまった。あんなに美しく輝いていたというのに。
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コメント
今日はお電話ありがとう。
ぴよちゃんもぴよこちゃんも大喜びでした。
私もとても励みになりました。
もりもり食べて、がんばります。
投稿: ののか | 2007/10/24 18:10