♪残されたもの
イースターの翌日、母と子どもたち全員の見守る中、父はとうとう天国に行ってしまった。それから毎日私は朝早く起き、父の愛した庭を歩いている。ゲンカイツヅジとユキヤナギ、トサミズキが咲き乱れる庭の中央の木立の中に、ひっそりとヒトリシヅカが咲いていた。次の日にはホタルカズラが咲きだした。
父が歩いた散歩道の桜は、父が亡くなった日から一気に咲き始め、葬儀の日に満開になった。父は花咲爺さんだったのかもしれない。残された家族はみなせっかちなので、私たちの為にサービス満点の父が早く花見が出来るように演出してくれたような気にもなる。そんなことまでしてくれなくてもいいのにと、あれこれと気を回しすぎる父のことをいつも迷惑がっていた私だが、最後の最後まで父らしいなあと、なんだか無性に涙が出る。
天に召された翌日、最後までお世話になった介護ホームから、父の亡骸が帰ってきた。本当は生きているうちにもう一度父が建てたこの家に戻りたかったろう。~不幸な思い出の多い生家を離れ父がこの場所に借金をして家を建てたのは、30を越えたころ。タダで設計をひきうけてくれた建築家は父の親友で、父と高校時代に知り合ってから生涯にわたり、一番の理解者だった。その人は葬儀の終わり棺の中に拾い集めた桜と一緒に、一晩かけてしたためた手紙を入れてくださった。実は身体の弱かった父の生母は、産後間もなく初子を遺し若くして亡くなった。また父親のほうは父が小学生のときに、40を過ぎてから招集され、無念の戦死をしている。手紙によるとその二人をあの世で引き合わせるのが、これからの父の大切な使命なのだそうだ。大事な役目をおおせつかると妙に張り切る父のことだから、葬儀からの数日間大活躍をして、今頃は産みのお母さんと再会、今度は海の藻屑となってしまった父親を探し出し、上手に引き合わせたことだろう。そして父は赤ちゃんに戻り、お話の上手な優しいお母さんと、頼もしくて遊び心をたっぷり持ったお父さんに慈しまれ、幸せなときを過ごしているところだろうと思う。
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父が亡くなってから書斎にある多くの蔵書の中からわが子たちが発見した本は、『ポケット詩集』。「おじいちゃんも持ってたんだね。」「そうだよ。おじいちゃんは朗読の専門家だもん。立派な演出家だったんだよ。」
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父との別れを覚悟してから私が毎日読んでいた本は、父と同じ病気だったエリザベス・キュープラー・ロスの『ライフ・レッスン』。そして一人になった母に捧げたい絵本は、『わすれられないおくりもの』。残されたものの心が、先に逝った人がのこしてくれたものを見つけることで癒されるという内容である。
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コメント
お父様お亡くなりになられたのですね。。。。
心よりお悔やみ申し上げます。
別れの覚悟をしていても
やはりお辛かったことでしょう。
祖母を亡くした時の母もそうでした。。。
どうかののかさんお身体をご自愛下さいませ。
投稿: あづゅ | 2008/04/01 15:51
ののかさん、お悔やみ申し上げます。
分かってはいても、いざその時が訪れるとお別れというものは辛いものですね。
形見分けという儀式はじっとその物に眼をやり、故人の温度が伝わるような気もします。私も母の遺した手紙を事あるごとに広げては、自分に問いかけたりしています。
どうぞ、ご自愛のほど。お母様を支えてあげて下さい。
投稿: sada | 2008/04/02 01:45
あづゅさんへ。
いいお別れを出来たという満足感はありますが、その後の雑事におわれ、くたくた状態でございます。
本当の悲しみの波は、もうしばらくしたら押し寄せてくるのではないかと思われます。
こめんとありがとうございました。
投稿: ののか | 2008/04/02 07:09
sadaさんへ。
周りを見回すと、父が残していってくれたものばかりです。何より私の命~そこから生まれた子どもたちの命、これが一番の父からの贈り物だったのだなあと思わされております。
コメントどうもありがとうございました。
投稿: ののか | 2008/04/02 07:10
ののかさんへ
お父様のご逝去を悼みます。
・・・
お父様も「わすれられないおくりもの」をきっとたくさん残されたに違いありません。
悲しみはきっと時が薄めてくれると思います。
そして、お父様のいい思い出をたくさん思い出してくださいね。
-(や)-
投稿: 山猫編集長 | 2008/04/04 18:19
編集長さんへ。コメントありがとうございます。
今までは反抗ばかりしていた私ですが、これからは父のことを受入れ残してくれたものを整理するのが私の仕事かなと思っています。
投稿: ののか | 2008/04/06 08:09