消息
「ちりとてちん」が終わって、朝の楽しみがなくなった。あのドラマは視聴率は最低だったそうだが、リアルで慌しく観るのではもったいないので、見逃さないように録画してあとから何度も繰り返しじっくり観た人も多かったのではないかと、私は思っている。近年まれにないほど質の高いドラマだったと、私は評価しているのである。何が面白かったって、まずはなんといっても五木ひろし。最近では紅白で見かけても今ひとつぴんとこなかったけれど、五木ひろしの存在感はドラマの中では健在だった。それから落語のきょうだい弟子である草原・草々・小草若・四草・若狭の人間模様が面白かった。語りの上沼恵美子の間のとりかたの上手なこと。役者では和久井映見が最高によかった。そしてヒロインを演じた貫地谷しおり。はまり役でしたね。この母子のかけあいに朝から感動して、何度涙を流したことか。こんな連ドラは初めてだった。終わってしまって、本当に残念。
さて話は五木ひろしへと飛ぶ。五木ひろしといえば、私が小学生のころはよく物真似が流行ったものだった。私のクラスにとてもひょうきんな男子でK君という人がいた。彼が五木ひろしの♪夜空 を歌う姿は、今でも私の脳裏に焼きついている。目の細いところがK君とひろしがそっくりだったから、K君が物まねするのが一番面白く、みんなで何度もリクエストしたものだった。「ちりとてちん」に五木ひろしが登場するたび、私はあのころのK君を懐かしく思い出していた。K君は今頃どうしているだろうか?と。
五木ひろしといえば、「ちりとてちん」では♪ふるさと が何度も歌われていたが、私の中では断然♪夜空。K君の熱唱は、今も私の心に生きている。またあるいは、ドラマ「日本沈没」のテーマ曲だった♪明日の愛。この物悲しいメロディーと歌声は私の心に染み渡り、今でもお風呂でよく歌う。いいないいな、五木ひろし。糸子さん(ちりとてちんの中の和久井映見の役名)ほど熱心ではないが、私も五木ひろしのファンだったりして…?。
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そういえば、最近K君の消息がわかった。父の通夜のため、地元のタクシーに母と私とこどもたちで乗って、都内まで行く道すがらのことである。私は助手席に乗って、父の葬儀に向かうというのに明るい声で私より若い親切なドライバーと世間話をしていた。その人の名は地元ではよくある名前で、K君と同じだった。顔もどことなく似ている。運転手はずっと地元で育ったとも話してくれたので、もうすぐ斎場に到着するあたりになって思い切って私は尋ねてみた。
「私の同級生にK君っていたんですけど、もしかしたらご親戚ですか?」
すると運転手は大変驚いて、
「それは僕の叔父です。うちのオヤジの兄さんの子どもです。」
偶然ってあるものだなあ。知り合いの甥っ子さんのタクシーに乗れるなんて、なんだか嬉しいなあと私は思った。これでK君の消息がわかりそうだ。私はとても嬉しくなってさらに尋ねた。
「いや~最近ドラマで五木ひろしを見るたびに、K君のことを思い出してたんですよ。五木ひろしの物まねがK君本当に上手だったから、クラスの人気者だったんですよ。ところで今はどうされてます?」
ところが彼によると、K君は10年も前に亡くなったというのだ。珍しい肺ガンだったという。解体業者として若いときから働いていたというK君。昨今のニュースでとりあげられている、アスベストによる被害ではないだろうかと、K君の甥っ子さんは残念そうに教えてくれた。K君の早すぎる死を耳にして、私は少なからずショックを受けた。
私は覚えている。私のことをいつもからかっていたK君。「クラスのなかで縦笛がうまい人を推薦してください。」と先生が言ったとき、真っ先に手を上げて私の名前をだしてくれたK君。K君は優しくて恥ずかしがり屋で茶目っ気たっぷりの、元気なdown town boyだった。
満開の桜咲く父の育った故郷で、私はK君の消息を知った(目的地の斎場は父の育った町にある)。これが何の巡り会わせかまったくわからないけれど、K君の若すぎる死を悼む気持ちは、今も私の心を支配している。
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コメント
なんだか著名な作家のエッセイを読んでいるようでした。面白かったと書くのは不謹慎かもしれないけれど、K君はののかさんに思い出してもらって本望じゃないでしょうか・・
投稿: ikko | 2008/04/18 07:36
おひさです、ののかさん。
五木ひろしは生まれ故郷が福井県若狭なんですよね。
弾き語りから身を起こした苦労人で、ただ歌うことが好きだという思いの強さが、大きくしたんでしょうね。
ところでK君というと漱石の「こころ」を思い出します。ののかさんの心に残したK君の急逝を悼みます。
タゴールの詩にも残された人への想いを綴ったのがあったなあ~、、。う~ん、、?題名忘れた、ごめん。
投稿: sada | 2008/04/18 13:52
ikkoさんへ。
不思議なもので、ここのところずっと遠い昔のK君のことを思い出していたのです。
こういうことってあるんだなあって思いました。
投稿: ののか | 2008/04/19 06:09
sadaさんへ。
私は覚悟していた父の死については、主観的にも客観的にも受け入れられたのですが、友人の突然の訃報(随分前に亡くなってはいたのですが…)には動揺しているのです。
父の葬儀にあたり、私が連絡係を任ぜられ大勢の方に電話して日程や最期の様子をお知らせしたのですが、そのときとても多くの方が言葉を失い、電話の向こうで涙を流し、呆然となさっていたことを思い出します。
やはり人がひとり亡くなる、この地上に身体がなくなるってことは、大変なことなのです。残された人の心の痛みはなかなか消えないです。だから♪千の風になって という歌が日本では多くの大衆の心を動かすのでしょう。亡くなっても魂は今も私たちと一緒にいるよ、というメッセージですから 慰められます。
投稿: ののか | 2008/04/19 06:20