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2009/10/03

ポプラの秋

ポプラの秋 (新潮文庫) ポプラの秋 (新潮文庫)

新潮社 1997-06
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キラキラと金色に輝く秋の風景が目の前に広がるような、心にしみるお話でした。『夏の庭』は少年たちととある老人の交流を描く夏のお話ですが、『ポプラの秋』では、父を亡くしたばかりの6歳の少女と30代後半の母親が、ポパイみたいな顔をしたおばあさんがやっているポプラ荘で過ごした秋の思い出が語られます。

突然交通事故で頼りにしていた夫を亡くした母親は、娘を連れてあてもない列車の旅を繰り返します。そして、大きなポプラの木に導かれるようにして知らない町の小さなアパートにたどり着き、そこに母子で引っ越すところから、物語は始まります。家計を支えるために働きに出た母を待つ主人公は、アパートの管理人をしている不思議なおばあさんの部屋で母の帰りを待つのです。そして、最初はとっつきにくかったおばあさんと主人公は、二人だけの秘密を持ちます。あの世の人に宛てた手紙を入れた秘密の引出しは、おばあさんしか開けることができません。主人公はおばあさんに、死んでしまった父親への手紙を託すようになり…。 やがて母は再婚し、ポプラ荘での生活は終わります。主人公は成長し、人生の目標を失いかけた女性になって、ポプラ荘のおばあさんの葬儀のために、再びその町を訪れるのですが…。キュープラー・ロスの自伝に出てくる話(あの世に行った人との通信)みたいな場面があって、本当にそんなことってあるのかなあ?と、子どものように興味が湧いてしまった私です。

人生は廻る輪のように (角川文庫) 人生は廻る輪のように (角川文庫)
Elisabeth K¨ubler‐Ross

角川書店 2003-06
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それにしても湯本香樹実って人の小説には、少年少女と老人と死が必ず登場するみたい。こどもが心の準備がないうちに「死」に出くわしたらかなり戸惑うから、いい形で「死」を受け入れ理解できることを私は願う。その点この本は、幼い心の悲しみを癒してくれる大人が登場するので、とてもいいなと私は思う。

ポプラ荘のおばあさんは、98で他界するまでに非常に多くの人から死者への手紙を託されていたので、葬儀にあたり棺桶にそれを詰め込むことになった。その中に主人公の母が死んだ夫あてに書いた手紙が1通だけあった。それを葬儀にかけつけたときに読む機会を持ったことで、主人公が母に対して抱いていた心のわだかまりが解ける。実は、主人公の父の死因は自殺だった。父親は妻に悩みを相談せず、遺書をわざわざ昔の恋人にあてて残していたのだから、未亡人となった主人公の母の苦悩は想像するにあまりある。父を亡くし、残された母の様子もずっと変だったために、6歳だった主人公はどれだけ不安だったかわからないのだが、その理由が20年の時を経て、あきらかになったわけだ。結局ポプラ荘で3年過ごしたのち、母は優しいパートナーにめぐりあい再婚する。そして夫に頼りきり太ってしまった母親から、心がどんどん離れてしまった主人公。なんだか可哀そうだ。その家を出たくて看護婦になったものの、つまらない恋愛で心も体もボロボロになってしまった主人公。どうやって自殺しようかとさまよっている心をかかえて、ポプラ荘を久し振りに訪れ、昔かわいがってくれたおばあさんが約束を守ってくれたことを知り、人間に最も大切な信頼する心を彼女は取り戻す。主人公は母に愛されていなかったのではなく、自殺した夫に似ている娘が父親と同じように思いつめて自殺するような人間にならないために、自殺という死因を母が娘に隠し続けたことを手紙で知る。少女を守ってくれた大家さんの愛の深さにも打たれる。いつまでも子どもの心を引きずっていた自分と決別し、明日に向ってポプラ荘から歩き出す、心の柔らかい女性の姿に、私は打たれた。

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『ポプラの秋』の前に、同じ作者の『春のオルガン』も読みました。私はこの、中学にあがる姉と小学生の弟の春休みをはさんだ冒険物語のほうは、どうもつらくて読み進むのが大変でした。登場する隣の家のおじいさんが怖すぎたのと、猫の死骸が気味悪かったせいだと思われます。

春のオルガン (新潮文庫) 春のオルガン (新潮文庫)

新潮社 2008-06-30
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