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2009/12/24

図書館の役割

12月21日の朝日新聞の夕刊一面に、年間3万人を超える日本の自殺者の問題をとりあげた特集が載っていた。その記事に紹介されていた話が印象に残ったので、ここでとりあげてみよう。それは「自殺したくなったら、図書館へいこう」というアメリカのPRポスターを何十年も前に見た日本の図書館員の話であった。死ぬ方法を調べに図書館に行こうというのではなく、図書館という知識の宝庫に行けば、気持ちが静まりどんづまりの精神状態から抜け出せるよ、ということをいいたいポスターだ。そのポスターに影響を受け、今志を持って何十年も図書館業務に携わり、啓もう活動をしていた人がいるという。素晴らしいことだ。だけど…私は今や合理化が進んで人手を減らしている図書館への警告のような気がして、ため息をつきたい気分になった。

私は先日まで図書館に勤めていたので、このコピーの言わんとすることが分かるような気がする。私がいたのは町の公共図書館ではないから、このコピーの言ってる図書館とはちょっと違うかもしれないけど、図書館であることに違いはない。私にとっても若いころから、図書館は最もお気に入りの場所なので、魂の居場所としての図書館(自殺防止)という発想はよくわかる。思い返せば悩み多き高校生のころ、学校で身の置き所がない気持ちの時に通った図書室が、私の心の原点である。そこは私の魂の居場所としてしっくりくるところだった。その空間、手に取るには多すぎる蔵書、静かな雰囲気、そして司書の先生の温かさが、私の心を癒してくれた。そして時を経て再び心に傷を負った時、私はわざわざ数ある求人情報から図書館を選び、実際ここ数年図書館業務に携わってきたのである。

図書館にはいろいろな人が来る。やる気満々で勉強に来る人。必要な資料を探しに来る人。大学を卒業したのに進路が決まらず、資格試験の勉強場所として通ってくる人。老後の楽しみの勉強のために通っている人。デートをしに来る人。AV資料を自分だけのブースで、のんびり見たい人など。目的もなく、寝っ転がって睡眠をとる人もいる。そんな利用者の中にちょっと気になる人がいた。「どうやってこれだけ大量の本を読めるんだ?」というくらい本を予約して、その人はせっせと読んでは返す、そしてまた大量に借りて帰る。その繰り返し。その人の読む本の内容は多岐にわたり、これだけの知識が頭に入ったら、相当な博学になるだろうというのは容易に予想がつく。だけどなんでこんなにたくさん?私は12月になって一度、さりげなく貸出しの際に「すごいですね、こんなにたくさん借りるなんて。速読ができるんですか?」とその人に尋ねてみた。その人は笑顔で(初めて見た笑顔だった!)「いえいえ、正月暇ですから、本読むくらいしかやることなくて。」と答えてくれた。私は「どうぞまたご利用ください。」と言って本を渡した。

あとから同僚がそっと「いいことしたね、ののかさん。私あの人のこと心配だったのよ。」と声をかけてくれた。なんでも、自殺に関する本をときどき読んでいたから心配してたとのこと。私はそんなことは知らなかったのだが、ただその人が本をたくさん読んで頑張ってることに感心してる、と伝えただけで笑顔がもらえたから、それでよかったと思う。私は、ルールを守るならどんな人でも来る人は拒まず、来てくれた人にはまた気持ちよく利用してもらえるような図書館であることが大事と思って仕事してきたから、大げさな励ましでも自殺防止に貢献したわけでもないと思うけど、ちょっとした心遣いをほめてもらえて嬉しかった。勤務最終日には、真面目でよく利用してくれる人が貸出の際に「いつもありがとうございます。」と言ってくれたのも嬉しかった。ぼそぼそした小さい声だったけど、「いつも」ってところが気に入った。…そして業務終了。私は不慣れな貸出業務のセクションにたった1年しかいられなかったけれど、私が図書館員としてやりたかったことはこれだったんだな、と遅まきながら心が凪いだ瞬間だった。

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さて来年立場が変わっても、私は図書館を頻繁に利用するだろう。もちろん知識の吸収だけならパソコンが一台あれば用が足りるが、図書館には知識の奥に深みがある。黄ばんだ本の汚れにも、真新しい本のブックカバーにも、その本を手に取った人の足跡や歴史がある。そんな味わい、それがいいんだなぁ。そして、味わいある知識が人を救うと私は信じている。そういう意味で、図書館で働く人には、志をきちんと持ってほしいなあというのが私の感想。しかし最初の繰り返しになるが、現在図書館業界全体が、合理化の道を歩んでいる。システム化や予算削減とともに、業務に携わる人間はどんどん減っていく。給料の高い専門職を減らして、派遣職員や臨時職員でまかなう。レファレンス業務が減る。本が電子媒体になりつつあるから、図書の取り寄せサービス(ILL)も減っていく。本の貸出返却サービスでさえ、機械が担当する日も遠くない。だから、アメリカで以前に言われた「自殺したくなったら図書館へ」というコピーは、まもなく通用しなくなるだろう。これからはもう少し形を変えた場所が、その役割を担わなくてはならなくなると思う。たとえばブックカフェとか。

ブックカフェか。いいな~。私ブックカフェを開こうかしら。書棚の横にゆっくり座ってお茶を飲めるコーナーがあり、絵本の読み聞かせなどイベントも行える。読書会なんかもいいじゃない?メグ・ライアンが映画の中で開いていたお店みたいな、アットホームな本屋さん。いいじゃない?

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コメント

今晩は、、。
私も「そんなに借りて読まはんの?」という輩の一人です。この冬休み用には32冊も借りて、帰りが大変でした。クリスマスの絵本が数冊、年賀状のデザインの本、来春映画公開の原作、女優のエッセイと訳書、コミック「リアル」1〜8巻まで、、。
最後まで読めるのか?疑問ではあります。

投稿: sada | 2009/12/26 00:11

sadaさんへ。コメントありがとうございます。理想の図書館には、いつまでも頑張ってほしいと思う私です。

ところで、sadaさんも多読なのですね!すごいな~。私は尊敬しちゃうんですよ、そういう方を。

どうぞ正月、じっくり読書をする時間を取れますように。よいお年を。

投稿: ののか | 2009/12/26 08:52

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