記憶について
この頃思うことがある。人間どんな辛いことがあっても、そのあといろんなことを経験しているうちに、辛かった記憶が奥のほうの引き出しにしまわれてしまうことがあるということを。しかし、忘却の彼方にいってしまったはずの記憶が、またなにかのはずみで甦り、新たに直面している問題を解決するときに役立つということ。そのことで辛かった記憶が今度は困難を乗り越えた体験と重なって、よい記憶になることを。
最近何回かそういう経験をして、人間ってよくできたものだなと感心した。創造主の偉大さを、実感してしまう。
忘れるという行為は危うい感じがするので、人はそのことを嫌うけれども、忘れてしまった方が楽なことは忘れてしまった方がいいに違いない。これは忘れるボックスへ、これは忘れたくないことのボックスへ、と日々記憶を自分で整理していければ一番いいが、こればっかりは簡単に操作できないところが、また人間の複雑さなのだろうと思う。時間がたつうちに、いつのまにか忘却ボックスへしまわれてしまう記憶たち。私の中にも幾つもまだ、残っているはずなのだが。
思い通りにいかない人生である。目標にたどり着けずに立ち止り、足元を見ることしかできず、それでも再び歩みをひとつひとつ重ねれば、別天地にたどりつく場合もあるだろう。前に進めない時、振り向くこともできない時、私たちを再び前へと進ませてくれる力は、どこから来るのか。それは人によっては記憶の奥の引き出しの中にある、自分が無条件に愛された幸福感とか、自分が自分を無条件に認めた自信とか、そういう暖かい記憶たちなのではないだろうか。
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