明日の神話
おととい時間ができたので、ジャーナリストの木下黄太さんの講演会に行ってみた。
私は3ヶ月前に起こった東日本大震災について、本当にあれから毎日毎日考えてきた。帰宅難民になった息子を待った10時間は長かった。けれど住居に被害はなかったし、仕事もたまたま計画停電にひっかからなかったので経済的な打撃は受けずに済んだ。運がよかったのだと思う。けれど予想以上に、精神的に大変落ち込んで、日々をなんとかやり過ごすことで精一杯な感じがしている。しかし情報があふれるほどあるようで、大事なことは隠されているような「いやな感じ」をずっと抱いてきた。
3ヶ月前に予想を超えた大規模な地震と津波があったこと、そして福島第一原発の放射能漏れがあったことは、本当に残念でならない。そして原発は今や制御不能に陥っており、これからどれだけの時間をかけて収束するのか、見通しがつかないばかりでなく、今もまだ大変危険な状態なようである。恐ろしいことにその間ずっと、放射能は漏れ続けるのである。
講演会では、私は現在十代の子を二人育てている母親であるので、当然放射能汚染の問題に一番関心があり、基準値以下だから大丈夫といわれているこの地域で今後生活していくことが本当のところ大丈夫なのかどうかを確認したかった。問題はないといわれている食材をとり、問題はないといわれている校庭のある小学校に子どもを送り出し、問題はないといわれている給食を子どもは食べている。そして学校は、風評被害で苦しんでいる被災地の隣県に子どもを修学旅行に例年通り問題はないと送り出す。それらが本当に問題ないのかを知りたかった。
だけど講演会で聞いた話を総合すると、事態は全く楽観できない~大変厳しい状況であると考えざるを得なくなった。知らないほうがましだったかもしれない。今後おそらく始まるであろう(いやすでに始まっている)東北や関東に住んでいる人間の健康被害は、どれだけのことになるのか、考えるだけでも恐ろしい。今ここで福島原発の放射能を含んだ瓦礫を日本各地で焼却したら、放射能がさらに細かい粒子になって汚染が広がる。そんなことは何としても阻止しなくてはならない。危険に晒されている福島や北関東の人たちはどんどん避難してもらいたいが、瓦礫はいらない。目に見えない放射能汚染をこれ以上広げることだけは、絶対に避けなければならない。
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講演会の帰り、すっかり疲れた私の目の前に広がったのが渋谷駅に飾られている岡本太郎の巨大な30メートルにわたる壁画だった。タイトルは明日の神話。最近、隅っこのほうに原発の落書きがされたことで話題になった。この作品は、第五福竜丸が水爆実験に巻き込まれ船員23人が被爆した様子をテーマにした作品として有名である。私は壁画の前に立って考えた。本当のことと思われることを知った私が、何の偶然か「明日の神話」をこの目で見ていた。その時、私の頭の中で何かが弾けた。思い浮かんだのは、あるユダヤ人の決断である。20世紀初頭ポーランドとロシアでユダヤ人に残虐な襲撃が横行した2~3年前のこと。シナゴーグの灯りが消えてゆく夢を見たあるユダヤ人のラビが、一族を連れてアメリカに脱出した。それからその一族がアメリカで生き延びてゆくために、どれだけの苦労をしたことか。しかしその地で生き抜いたユダヤ人が書いた本で励まされている私は、今何をしなければならないか真剣に考えるときが来たと思わされている。
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なぜ私の住んでいる日本は、1945年の広島・長崎への原爆投下や1954年の第五福竜丸事件を経験しながら、21世紀になって史上最悪と思われる原子力発電所事故を起こしてしまったのだろう。私たちの国は、絶対に一番こんな事故を起こしてはならない国だったはずではないか。せめて私は、まずはできることから始めようと思い、昨日は黄色いリボンをつけてみた。
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コメント
私も仕事の行き帰りに必ず「明日の神話」の前を通り、あの絵を眺めます。
今後、そして今を真剣に考えるときですよね。
投稿: にじ | 2011/06/12 23:51
にじさん、コメントありがとう。
あの壁画、今まさにね、考えさせられますよね。
投稿: ののか | 2011/06/13 10:21