兎角に人の世は
胃の痛いのが大分おさまって、昨日は出勤。そして職場で気楽に話ができる人と会ったら、私は自然と笑顔になった。何日ぶりかで笑えて楽しい気分になると、笑えるって幸せなことなんだなとしみじみ思った。どこも痛みがないから笑えるようになったのだ。胃が痛いのが楽になってよかった。そして今夜は、気のおけない友だちと電話で近況を報告しあい、寛いだときに思った。苦しいときに傍らに立ってくれる友がいる自分は本当に幸せ者だと。
こういくつも「幸せ」と書くと、少々不自然である。整理しきれない複雑な思い。こうなるはずではなかったのにという恨めしい気持ち。実はそういう心の傷が、私の深いところで疼いている。私は感謝の気持ちとは裏腹のどうしようもない気分に蓋をして、日々の暮らしを送っている。
人生いろいろなのだし、死ぬときに思い残したことのない人なんて少ないだろう。自分が納得してもしなくても、時間は誰にでも等しく流れていき、物事は収まるところに収まるのだ。自分らしく生きられずに抱えてしまう心の葛藤を、夏目漱石は『草枕』でこう書いた。「兎角に人の世は住みにくい」と。
明日私は笑えるだろうか。自然と笑顔になれればよいと願うがどうだろう。漱石が草枕の舞台にした熊本は、今夜は冬間近の寒い雨である。先程は雲間から、丸い月が拝めたのだけれど。
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