2016/02/24

水色の物語

「水曜日に開封してください」と私のもとに届いた手紙。差出人は、熊本は赤崎水曜日郵便局。水曜日まで待って開けてみると、そこには若い女の子の物語がつづられていた。

話は私がとある日曜日に、熊本の芦北にある つなぎ美術館 を訪ねたところにさかのぼる。あの日私は、高速を飛ばして津奈木町まで出かけ、美術館にあったポストに手紙を投函したのだった。水色にキラキラ光る海のある小さな町を見下ろす丘にケーブルカーでのぼり、ひととき思いをはせた。その思いを綴った手紙は、どこの誰にとどいたのだろう。興味が広がる。なんて素敵なプロジェクトだろう。

このプロジェクトは「赤崎水曜日郵便局」 という。海に浮かぶ赤崎水曜日郵便局に自身の水曜日の物語を送ると、知らない誰かの水曜日の物語が送られてくるというちょっと不思議なアートプロジェクトです(この紹介文は、『赤崎水曜日郵便局』の公式ブログより)。

赤崎水曜日郵便局
赤崎水曜日郵便局 楠本智郎 つなぎ美術館

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私は、慰めのハートもそうだけれど、こういう物語が好きである。誰かの気持ちが誰かに届く、誰かの物語が違う誰かに届く。こういう繋がりによって、人が慰められたり元気が出たりする。そういうことが、なんだかいいなぁと思うのである。

 

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2013/12/16

FRUITS BOX 『SEALED DINNER』

熊本城二の丸にある、熊本県立美術館の本館。そこで今月23日まで開催中の、第Ⅲ期コレクション展(←ここをクリック)。フランスの近代絵画を展示している部屋では、その他に芸術の都ウィーンで学び、ヨーロッパの古典技法を駆使して現代を描いた熊本の3人の画家の、優れた作品が紹介されている。

私が好きなのは、その中でも谷脇敬二のもの。特に考古学が大好きな私は、人類が使った最古の道具であろう石器の絵が特に印象的なのだが、その右の「SEALED DINNER」は、作家の放射能に対する危機感が表れた作品であると最近知った。 描かれたリンゴ達は放射能に汚染されているのだという。それを食べてはいけない。鉛によって大きく×をされた食卓。そこに書かれた言葉。

HE MUST NOT EAT THIS APPLE

THE DINNER [1980 F・H・R・B]HAS BEAN SEALED ETERNALY

SHE MUST NOT EAT THIS APPLE

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2013/09/29

薄に舫(すすきにもやい)船図襖

九月は、横山大観の「薄に舫船図襖」を幾度も見ては目に焼き付け、十五夜のお月様を重ねて風情を楽しんだのがいい思い出。

今日は日曜。そう暑くもないのに、お城ではセミが鳴いていた。セミは何を間違ったのだろう。あさってからもう十月よ。

十月となればまぎれもなく秋。秋は金色。やがて公園に黄色い落ち葉が舞って、季節は冬に近づくのだろう。

陽の力が弱まりきるのは、冬至の頃。そしてクリスマスに、また光がやってくる。私は光を待ち望む。

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2013/04/23

白樺の木陰での朝食

インフルエンザのときに見舞いにお花を贈ってくださった方に、お礼状を出したらまたカードをいただいた。そのカードの絵が気に入って、デスクに飾っている。それは白樺の木陰での朝食(カール・ラーション)。

なぜかこの穏やかな絵を見ると、私は「長くつ下のピッピ」を思い出し嬉しくなるのだ。小学生だった自分はこの本を読みながら、いいなぁ楽しそうだなぁと思いを巡らせたものだった。あの頃は幸せだった。

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なんと今日になって調べてみると、ラーションはピッピと同じスウェーデンの人ではないか。私がピッピを連想したのには、ちゃんと理由があったのだ。

気に入ったものはもっとゆっくり味わいたいので、今度図書館でラーションの画集を探してみようと思う。

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2013/04/19

春のうららの

今日は娘が上機嫌で、学校から帰ってからずっと歌を歌っている。九州に引っ越してきてから、ずっとこんな調子である。こんなに歌を歌う子だったかしらと不思議でならないが、のびのび毎日たのしそうなので、嬉しく思う。

…春のうららの隅田川…♪

「ねぇ、ママ。この歌の題名知ってる?」

なんとしたことか!問われても咄嗟に答えが出てこない。

「えっと、早春賦だっけ?いやいや違う。隅田川だっけ?」

という私の回答に、娘は大笑い。そのあと答えを教えてもらって納得。そうだ、タイトルは♪だった。

「歌の作曲家は分かる?」

なんとしたことか!また分からない。これは年齢のゆえか、それとも何かで脳がやられたか。嫌だ嫌だ。

「えっと、ヒントは?」

「だから♪箱根八里とか♪荒城の月とか。」

「山田耕筰より前の偉大な作曲家の作品だったことだけ覚えているわ。」

しかしどうしても名前が思い出せない。仕方なく娘に教えてもらった。作者はかの滝廉太郎であった。

滝廉太郎といえば、東京音楽学校(現・東京藝術大学)の出身。私は東京音楽学校の奏楽堂が上野に甦った1987年に、記念のコンサートに行ったことを思い出した。奏楽堂といえば、滝廉太郎。コンサートは随分昔のことだけれども、滝廉太郎の名前を思い出せなかった自分が情けない。その時の本(↓)は、実家にまだ置いてある。折を見てもう一度見てみたい。

 上野奏楽堂物語(東京新聞出版局)

今調べたところ、滝廉太郎が♪を作曲したのは1900年。その翌年ヨーロッパへ留学したが、結核にかかり帰国。大分で療養中の1903年に亡くなった。満23歳だったという。しかし彼の作曲した歌は廃れることなく、2013年の春になお歌い継がれている。文化というのはそういうものなのだろう。素晴らしいことだ。

ということで、今日の私の日記はこれでおしまい。

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2013/04/08

若者の特権

中学生の時朝礼で生徒指導の厳しい先生が、生徒たちの校則違反を嘆いて言っていたことを思い出している。確かこういう内容だった。「若い人がなぜ誤魔化すのか。若い人の特権は潔癖であることなのに。」

私は長年この時の言葉の意味が分からなかった。潔癖であることというのは、どういう意味なのだろうかと。しかしこの土曜日にあったイベントに参加して、初めて私は先生が言おうとしていたことが分かった気がした。それは下記のものである。

  福島県立相馬高校放送局 九州上映会(長崎・水俣・熊本)

熊本大学の石原先生の呼びかけの言葉にあるように「いま震災/原発災害下で起きていること」を発信してくれたのが、この高校生たちであった。相馬高校は2011年3月11日、震度6の地震に見舞われ、生徒の中には大津波によって家を流され家族を失った者もいた。それから2年。地震・津波・原発事故に晒され、今尚相馬に暮らす彼女たちは、放送局に入って音声や映像によって揺れる気持ちを表現してきた。今回はそれに加えて演劇部の上演作品を映像に収めたものも上映された。大変な迫力に、会場にいた者たちは圧倒された。そこで私がこの高校生に感じたのが、「若者の特権」である。若いからこそ自分たちが思うことをそのまま表現できたと思うし、このような上映会が実現したのだ。

会に参加し作品の制作過程や「今伝えたいこと」を聞いて、私の思うところは色々ありすぎてまとまらない。ただ現在日本に突き付けられた課題は、あまりにも大きいとしか言えない。

これは私が最近見つけた日本地図。興味のある方は是非、実物を手に入れてご覧になっていただきたいと思う。

  地球子ども新聞 133号

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2013/03/22

福島から

私は今日の午後、うちから少し離れたところの教会に出かけた。

東日本大震災後の福島の音を記録している永幡先生から、福島サウンドスケープの紹介とそれにまつわる話を聞いた。福島大学の除染の様子、信夫山の様子、小鳥の森の様子など。

あの日まで持っていた希望。それが叶えられなくなった暮らし。今まで通りにしたい人、今まで通りにできない子どもたち。子どもの声が消えた森。人間たちの沈黙に何を感じるか、考えるか?

福島の記録や福島からの発信としては他に、写真では上映作品としては相馬高校放送局があるのを私は知っている。

今九州に暮らす自分は本物の音や作品に触れて、何を感じ何を考え何をするか?難しい問題だけど、本物からはきっと大事なことを学べるに違いない。そうして心新たに明日を踏み出さねばいけないと、私は今強く思っている。

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2012/11/29

森は生きている

小さい頃親に連れて行ってもらった劇で、よく覚えているのは「森は生きている」。

今日は絵本のブログを書いていたら、そのことを思い出した。 →♪あの頃のまま

記憶が正しければ上演していたのは劇団仲間である。調べてみたら、今でも上演している。なんと懐かしい。 →劇団仲間

歌もとても懐かしい。音楽は林光。

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この話には12の月の語というタイトルもあるけれども、今年もいよいよ押し迫り、明後日には12月に入る。寒いわけだ。冬なのだから。

劇団風の子のほうでもこんな作品が。いいお話だもの。 →★

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2012/11/28

DARK EMPEROR

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力強い絵に、心が鷲掴み。満月の夜に。

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2011/11/05

「雨と血と花と」

世界各地で、今しきりにデモが行われている。それぞれ主張は様々だが、みなギリギリのところで立ち上がらざるを得ないから行動に出ているのがわかる。平和なデモもあるだろうが、弾圧がひどいところでは、死者が出たり逮捕される人が出たり、現場は熱く燃えている。

この日本でも、大震災の後、脱原発を訴えて霞ヶ関の経産省前ではハンガーストライキが若者によって行われたり、ここ数日は福島の女性たちとその支援者たちによって、座り込みが行われた。9月には大江健三郎など著名人の呼びかけで、6万人デモが東京や全国各地で行われた。その少し前のデモでは、逮捕された人が出たりして、殺伐とした場面も見られたようだ。

今日はTPP反対派が、首相官邸や国会周辺に集まったようだ。なんだかすごい数である。政治家や農民、それから普通の人々が一緒になってる。このように、眠っていた日本人たちは、大きな危機にさらされて変わってきたようである。いずれも「生きるか死ぬか」の覚悟を持った人たちの真剣な訴えがあるのであるから、国を司る政治家はそれを「声なき声」にしてほしくはないと私は思う。

今日偶然に、1960年の安保闘争のとき、東大生の樺美智子さんが亡くなった国会前の大混乱のデモを題材にしたドキュメンタリーラジオドラマ「雨と血と花と」(木下順二脚本)の記事を見つけた(→梁塵日記)。番組に携わった山本安英や、ディレクターの証言が生々しい。そのドラマを20年後、再びラジオで放送したのは、私が懐かしいと思うアナウンサーの林美雄さん。

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あの時代と今は、繋がっている。あの時あの場所にいた人達と私は、繋がっている。ただ、今の日本がどれほどの危機的状況であるかという認識が、情報の得方によるのだろうが人によって様々なのがもどかしい。私は非常時だと認識しているのだが、そう感じてない人には、私の意見はピンとこないと思う。

いずれにしても日本は、60年安保闘争がなし崩しになったのと同じように、いつの間にかデモなどで声をあげた人々の叫びは「声なき声」となってしまうのかもしれない。「みえないばくだん」や見えない大きな力が、長い時間をかけてずっと日本を覆ってきたこれまでのように。

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